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激指3vs白砂青松
1回戦 棋譜はこちら(別窓で開きます)
白砂が先手。▲7六歩△8四歩▲5六歩△8五歩というスタートだったので、『島ノート』の変化を試してみる。
△6二銀▲8六歩という変化も定跡にはあったのだが、以下△同歩▲同角△8五歩▲7七角△6四歩▲4八玉△4二玉▲6六角△3四歩▲2二角成△同銀▲8四歩△7四角▲6六角△3二玉▲5八金左……というなんとも中途半端な変化が70手まで並ぶだけだ。本譜は△3四歩だったので、やまびこ飛車の変化へ。
ところが、△2四角成とされてしまい、早くも『島ノート』の変化から外れてしまった。
△8四角成の変化も定跡にあるが、▲9六歩△5二飛▲9七角成△3三銀▲6八銀△6二銀▲7七銀△5三銀▲6六銀△6四銀▲7七桂△4四銀▲4八金△4二金▲4九玉△4一玉▲3八玉△3二玉……という、これまた絶対どこかの実戦としか思えない手順が70手まで続く。どうも、激指開発陣は定跡書を並べるということをしないらしい(笑)。
△2四角成に▲9六歩として定跡から外れる。ここ、激指定跡は▲7五角成として、△4二馬▲6五馬△5二金右▲4八玉△5三金▲8八銀△3三銀▲7七銀△3二金……と70手まで。なんと相穴熊の変化が続く。絶対こんな手順指さないって。
定跡から外れて力の戦いになったが、激指は△3一銀と手損をしても形をよくする手順を選択。こちらはこちらでしっかり美濃に囲い、攻め合い勝ちを狙う体制だ。▲7八金は▲5九金も考えたが、こちらの方が指し慣れているのでこうした。
▲4六馬と圧力をかけた手に△8六歩として戦いが始まった。△7五歩には▲同銀とか▲5四歩とかいろいろ考えられるところだが、と金ができる形を大きく見て▲8七歩から攻め合いに持ち込んだ。▲7三歩が銀損を補う手で、ヘタに受けると▲4三とが馬金両取りとなる。
激指はここで△5六銀打と押さえ、-900前後で後手優勢と見ている。しかし、▲7二歩成△8五飛▲7三馬△7七歩成▲5一馬△7八と▲4二金と進むと、これはもう「喰いついた」形だろう。ところが、この局面でもまだ激指は△6八とで-1000前後の後手優勢と見ているのだ。
△6八飛には▲5六飛と喰いちぎり、▲3二金△同銀▲4二とで断然先手が優勢だ。受けようにも受けるスペースがない。しかし、▲3二と△同玉とここまできてもまだ、激指はのんきに▲4六金△4四馬▲5六金なんていう手を読んでいる。検討モードでは▲4一銀も4番手に表示されるが、△2二玉▲4二馬△6七とで後手優勢(-1420)だそうだ。
▲5六金の局面になってやっと事の重大さに気づくも、これでは遅すぎる。
白砂の寄せがトロかったために手数は長くなったが(泣)、最後まで先手優勢は動かなかった。
2回戦 棋譜はこちら(別窓で開きます)
激指が先手。▲7六歩△3二金に▲7八金としやがったので、中飛車へ。『真・石田伝説』に載っていた横歩取り型の石田流である。
△4二銀で定跡から外れた。定跡ファイルは△7二玉となっていて、▲4七銀△4二銀に先手の指し手が枝分かれしている。
△4二金に▲5六歩△同歩▲4七銀という軽い仕掛け。△5七歩成は迷うところで、これを入れなければ、後の△3六歩▲同歩△同飛の時に△4六飛と回れる。ただ、その場合△5五歩にじっと▲4七銀と引く展開になることも考えられる。
本譜は、逆に▲6五銀を軽んじていたもので、まさか出てくることはないと思っていた。激指の積極性が出た、とも言えるし、有段者にしてみれば、先手も十分玉が固いのだから攻めて当然じゃん、と言うのかもしれない。白砂は出てくるとは思ってなかった。
▲2四歩にも驚かされた。振り飛車としては飛車を持って勝負、と行きたいところなので、まさか相手から交換してくれるとは思わなかったのだ。激指にしてみれば、▲8六角の味がいいから先手十分、ということなのだろう。この積極性が、良くも悪くも激指3の持ち味だ。
△5六歩を利かして、いつでも角を切れるようにしておいてからじっと△5二金左。次はなんでも角切って△5七歩成である。ただ、この瞬間に激指側にうまい手があったら激指の勝ちだ。▲5三歩と叩く手、▲5四歩と垂らす手、飛車も2三と4一と3二に打てる。
激指が選んだのは▲2三飛だった。こちらは当初の予定通り角を切って△5七歩成。激指はここで▲5三歩と叩いた。
この瞬間の△6九銀が振り飛車らしい一着。▲7九銀と打ち込む駒を使わせてから△6二金寄で、これは振り飛車ペースだろう。激指の形勢判断もここで後手有利に振れた。
▲5八歩から▲3六角は必死の防戦だが、△7八銀成▲9七玉に△8九成銀が△8五桂を見て厳しい。以下数手で激指投了。
3回戦 棋譜はこちら(別窓で開きます)
白砂が先手。▲7六歩△8四歩▲7八金に△3四歩だったので、▲2二角成△同銀▲7七桂から7七桂戦法へ。激指はここで早くも定跡から外れることになり、自力での対応を迫られた。
激指の回答は「わかんないからとりあえず玉を固める」というもの。△5一金右など、角打ちに備える駒組みだ。しかし、この展開は7七桂戦法にとっておいしいもので、普通に囲いあって十分の分かれだ。
▲7四歩△同歩▲6六角から強引に飛車を手にしたところでは、公平に見て先手が指せている形だろう。しかし、まだ激指は互角(2ケタレベルで先手有利)と見ている。
ここで△1五歩▲同歩△同香には驚かされた。人間相手でもこんな手を指されたことはない。冷静に見れば傷を作っただけのような気もするが(笑)、これが激指3らしいところだ。
手がなくなった激指は△8三歩から△6四歩だが、これは角銀交換ながらと金が作れる展開。▲6五桂も利く形で、先手が有利になった。
▲7二飛に△9二飛は苦心の受けだが、これは「いっときぢから」というもの。先手に怖いところがなくなった。あとはタコ殴り状態で、こちらはほとんど考えずに指している。それくらい形勢が離れているのだ。
最後は▲2六歩と軽く突いて終了。△3四銀は▲1四桂だし、△同銀も本譜のように▲2五桂がある。△1四銀なら少しは粘れたかもしれないが、▲4一龍とか▲5二龍くらいでダメだろう。この時、2六歩が上部の制空権を取らせないようになっている。
変態戦法には対処できない、というコンピュータの弱点がモロに出た一局だった。 つーか、こういう展開に持っていくのって、やっぱ心が汚いよなぁ……(笑)
4回戦 棋譜はこちら(別窓で開きます)
激指が先手。▲7六歩△3二金に▲6八銀。どうしても3二金戦法に持っていけない。今度は、右四間飛車を試してみた。
早い段階で△9四歩と端を入れておくのが実はいやらしい指し口(笑)で、右四間飛車の場合、端の交換はほぼ100%右四間側が得をする。だから『東大将棋矢倉急戦道場』では端歩を突き合っていない形が解説されているわけだが、それをコンピュータが判断できるか? という一種の試験だった。
激指はノータイムで▲9六歩。人間だったら、上記の知識が頭に入っていれば、△9四歩には手抜きで陣形を整えるはず。コンピュータがコンピュータだという現実だ。△6四歩の時点で定跡ではない展開になっており、仕方がないといえば仕方がないのかもしれないが。
▲7七角から▲6八銀は明らかに不自然な駒組みで、▲8八角と手損をしている間に、こちらは△1四歩まで入れて悠々としている。△6五歩と仕掛けたところでは、きっと後手が大優勢なのだろう。
角交換してどこに角を打つか迷ったのだが、△2二角では壁になるし△3三角では▲3五歩の当たりがきついということで△4四角と打った。しかし、▲5五銀に△2二角と引くようでは、最初から△2二角と打っておいた方がよかった。もっとも、△2二角なら先手は▲7七桂と受けたのだろう。
▲6三歩から▲7二角は駒得を目指したコンピュータらしい指し手だが、▲9一馬に△5五歩と決戦して後手が指せていると思う。△5二飛で、歩切れの先手には思わしい手がない。この辺りから、激指も非勢を悟り始めている。
▲5九桂と受けた手に対して△5七銀から攻撃開始。△7六銀から△6七銀とストレートがまともに入って決まってしまった。激指は▲6一飛からなんとか金を外したが、△6六金が手厚い。
▲9七角に、△4四歩▲5三角成△4二角とあえて5三の金を取らせて角を打つのが狙いの一手で、馬が逃げると先手玉か詰むから▲4二馬と清算するのは仕方がない。これで先手を取って△6九銀で決まり、と思ったのだが、▲5九飛で慌ててしまった(笑)。△6九銀に90秒近く考えたのだが、この手だけすっぽりと抜け落ちていた。
ここからの攻めは、頭に血が上っているので最善手ではないと思う。それでも、△4三角と攻防に利かしてから△6六歩で決まった感じだ。差がついていたので助かった。
5回戦 棋譜はこちら(別窓で開きます)
激指が先手。激指の四間飛車に白砂は急戦を見せつつ左美濃へ。▲2六歩に△2三玉が激指定跡になかった手で、ここから力の勝負になった。
▲5六銀に△4四銀が少し欲張った手だったが、激指は▲2五歩と突き捨ててから▲6五銀と過激な変化へ。この▲2五歩という手は、有段者なら「とりあえず突いとけ」という感じで手が行くところだ。しかし、コンピュータがこの手を指せることは少し驚きである。玉形が弱くなる、後の攻めの味付けになるという漠然とした発想を、どうやってコンピュータに組み込んだのか興味深い。もっとも、この手は激指2も指すので、激指3が凄くなった、というわけではないのだが(笑)。
ちなみに、この局面を東大6と柿木7のヒント機能にかけてみたところ、東大は▲6五銀、柿木は▲9六歩が最善と出た。やはり、激指の思考は通常のそれとは少し違うのだろうか?
本譜は△8六歩から大決戦になった。しかし、やはり2四玉というのが不安定で難しい。常に▲3六桂を見せられているのが辛いのだ。本譜も、先に△2六桂と打てたものの、▲3六桂から逆に攻められてしまった。
△7三桂と逃げた手を生かして、▲7一飛に△9四歩、という手はあったかもしれない。▲5九角(激指3の候補手)なら△8五桂と逃げ、▲8六歩(同)に△5三歩▲6五銀△8九飛成▲8五歩△3五銀ととにかく辛抱する。▲8六歩以外にもなにかありそうだし△5三歩も気が利かない手なのだが、本譜よりはずっとアヤがあったと思う。
▲3六桂に△3三玉と逃げたため、▲6三銀不成△4三金▲5四銀成という綺麗な攻めを喰らってそのまんま負けてしまった。
局後に調べてみたら、66手目の△4九銀で△2六歩と突けばまだ難しいところもあったようだ。ただ、本局の見所は▲2五歩に尽きると思う。白砂が最後の詰みを見逃したためにつまらない幕切れになってしまったが、激指3の強さが存分に出た一局だろう。これくらい派手に(笑)指してくれるのであれば、人間の相手として申し分ない。
6回戦 棋譜はこちら(別窓で開きます)
激指が先手。▲2六歩だったので、△8四歩から相掛かりへ。最近あまり見なくなった3七銀戦法へ進む。実は、個人的には一番優秀な先手の戦法ではないかと思っているので(除:7七桂戦法(笑))、さっそく△7四歩と定跡を外した。このまま△5四銀▲3八金△4四角▲3四歩の展開は、さすがに指す気がしない。
△7四歩の狙いは譜を追えば明らかで、姑息に右玉にして激指の力を出させないようにしている。こういうテストの場合なのだから正面から斬り合えばよさそうなものだが、すまん、白砂も結局は勝負師なの(<こら)。
姑息な人間様に惑わされたか、激指は4回も▲2四歩△同歩▲同銀△2三歩▲3五銀を繰り返してしまう。この辺りがコンピュータの限界だろうか。
4手も得をさせてもらえば、こちらは悠々と陣形を整備することができる。△9五歩と端を突き越し、満を持して△3八歩と攻めた。
しかし、戦いになれば激指も力を出す。▲4五桂から▲5三桂成が強い手で(というか見落とした白砂が弱いだけなのだが(泣))、△5三同金は▲4四銀で壊滅する。△3七とは寸前でこらえた手だが、金を取って悠々と▲4六飛で激指優勢だ。
ところが、△4八と▲3四銀△4四香▲5六飛△3三歩▲2五銀△4七とと進んでみると、これが意外と難しい。▲7五歩は飛車の逃げ道を開けると同時に後手の一番弱い桂頭を攻めた手だが、△4六ととしてみると逃げる場所がないのだ。▲7四歩からはほぼ必然で、△4二金、△5二金と右玉らしく寄ったところでは、だいぶ紛れたと思っていた。
△5二金に▲5三金と捨てれば、難しいながらも決まっていた。△2五龍▲5二金△同銀▲6二角△8三玉に▲7一金とベッタリ打つのが好手だ。激指の指した▲4五歩から▲3六銀は、駒の損得を考えすぎた悪手だと思う。
△4六馬からはこちらの攻め。棋譜だけ見るとあっという間に詰ませているようだが、実はここまでうまく行くとは読んでいなかった。△9六桂と捨てて△8五飛と銀を取って△7九銀までが読みだった。△8五飛と走ったところで、△6九飛成という手があることに気づいたのである(笑)。
最後の即詰みも救われている。実は、▲9八金合で▲9八香合なら詰まなかったのだ。こちらはこちらで、△7九馬があるから簡単に詰みと思っていた(笑)。これは▲8六玉で詰まない。
長手数の詰みがからむと、最強コンピュータでも頓死することがある、という稀な一局だった。
7回戦 棋譜はこちら(別窓で開きます)
▲7六歩△3二金▲7八飛。やっと念願の3二金戦法を試せた。
こんな展開が定跡に入っているはずがなく(笑)、わずか4手で定跡から離れる。
激指は石田流にも組まずに普通の駒組み。対するこちらも、普通に3二金戦法に組み上げた。5七銀型の三間飛車から更に▲8八飛と寄ったため、先手陣は陣形が偏っている。3二金戦法満足の序盤だ。
▲8六歩から1歩持った激指に対し、こちらも△7五歩からちょっかいを出す。結果的に激指だけが2歩持つことになったが、こちらは78筋の位をしっかり取れた。あとは千日手もしくは入玉狙いだ。
しばらくは水平線効果っぽい手待ちを繰り返していた激指だが、焦れたのか▲8六歩から打開を目指してきた。しかしこれはさすがに無理筋。飛車を切って▲3二金で一応駒得にはなるが、こんなところに金を打って幸せになった人はいない。
切り返しの△8七歩成から△7八とが「おいしすぎる」一手。▲8六香しかないのでは、先手の唯一の主張である駒得までなくなってしまった。
このあとは3二金戦法の独壇場。
途中で王手飛車を喰らったりしているが(泣)、結果的には大駒を全部召し取って大差の将棋だ。
最後の方、敵陣に駒を打ちまくっているのは持将棋宣告対策で、敵陣に10枚以上駒がいないと持将棋宣言ができないルールなのだ。まぁ勝敗には影響がないので問題ないといえばそうなのだが、もう少し判定法に工夫が欲しかった。
以前、激指2に二枚落ちで指した時も思ったことだが、こういう大駒vs小駒の接近戦になると激指の棋力は極端に落ちる。激指3に4枚落ちで勝ったという人のホームページを読んだこともあるし、駒落ちが極端に弱いようだ。ここまで面白い将棋を指すこともあるのにコンピュータ将棋選手権で今ひとつ成績が伸びないのは、ここらへんにも理由があるのかもしれない。