市販将棋ソフト紹介
激指3vs東大将棋6
1回戦 棋譜はこちら(別窓で開きます)
東大が先手。相矢倉に。東大が▲6五歩から▲6六銀と盛り上がる形に。
玉が3段目に行ったり凄いことになっているが、これで定跡というのだから二度ビックリだ。どうも矢倉は判らん。
激指の定跡は70手目△4五歩と打ったところまで。一方の東大は71手目の▲5六金まで定跡に入っている。しかし、71手目▲5六金で「互角(165)」ってのはどうなんだ一体。なにも不利な定跡に飛び込むことはないじゃないか(笑)。
▲8五歩から玉頭開拓に出た東大だったが、さすがに自玉頭の歩を突いて行くのは反動が大きい。△9三桂から△8一飛がうまい切り返しで、▲8八玉から▲8七歩とするようでは今までの数手がムダになってしまった。
ところが。
悪くはないのだが、具体的な指し手となると難しいという局面が将棋ではよくある。本局がまさにそれで、△5四歩▲同歩△同飛▲5五歩△8四飛を繰り返しているうちに東大に陣形を整えられ、▲9五歩と攻められてしまう。こういう将棋は駒が偏っているので、一ヶ所食い破られるとそれで終わってしまうのだ。結局、飛車を取られ、角を取られとボロボロ駒を取られてしまった。
▲4三香▲6三桂成▲5五同銀はそこまでやらなくても……という攻めだが、▲5三成桂に△5六銀だと▲5四成桂が▲2一金以下の詰めろになるのをしっかり読んでいるのだろう。
残念ながら全くいいところのなかった激指だが、これは激指が弱いのではなく、単に定跡選択の問題のように思う。
そういう定跡を選択するようだから弱いんだと言われればそれまでなのだが(笑)
2回戦 棋譜はこちら(別窓で開きます)
東大が先手。東大が位取り中飛車から急戦を仕掛けた。
▲5六飛から▲3六飛、そして▲8六歩と、これら全てが(双方の)定跡というのは、いい意味でも悪い意味でも凄いと思う。
激指は70手目△5六桂までが定跡で、ここまでで終了。一方の東大は73手目▲8六角までが定跡。▲7六歩まで形を決めてから△4九銀と割り打ち、そして△2五金と飛車を詰ませて激指は好調だ。ただ、細かい話だが、東大が指摘するように、金は5八の方を取っておけば後々△6八桂成が生じたし、△3六金では△3五歩▲4五桂△3六歩▲3三桂成△同桂の変化を選んだ方が得だったと思う。本当に細かい話ではあるのだが(笑)。
▲4五桂は東大待望の反撃だが、△4四歩とマス目を埋める手がうまく攻めがつながらない。一枚はがして▲6三銀とからんだものの、△7五飛から△6九角が当然ながら待望の攻め。▲8二飛と打っても△4二角くらいで攻め合いにすらならない。▲4九金と埋めるのでは先手が辛い。
この辺り、東大と激指で読みが違っているのが面白い。東大は△6九角で△5七桂で後手有利と読んでいるが、それは▲5四銀打くらいで難しいと思う。また、激指は△6九角の局面では-923としているが、△5八角成の局面では-67、△4八金では236と逆に先手有利に振れている。しかもこれが全て読み筋の範疇(相手の指し手も当てている状態)というのだからよく判らない。どういう読みなのだろうか?
将棋の方は、千日手を避けた(?)東大が▲2八玉と無茶な逃げ方をしたためにあっけなく終わってしまった。
3回戦 棋譜はこちら(別窓で開きます)
東大の先手。東大の四間飛車に激指はスキありと見て△4二角だが、その後の定跡のフォローがない。△2二玉に▲5六銀と出られて、慌てて△4四歩▲6五歩△3三角ではなにをやっているんだかをい……という感じである。結局左美濃に落ち着いたが、東大がだいぶポイントを稼いでいると思う。▲4五歩から再度の▲4五歩で位を取って、これは2二玉型左美濃の弱点がモロに出そうな展開だ。
ところが、激指の勝負手△5五銀に東大が間違える。▲4六金はチャンスと見ての一手なのだろうが、こういう素抜きがからんだ手というのは何か読み抜けがあると空中分解してしまうものだ。この将棋もそうで、△2四角と出られて急に難しくなってしまった。4五の位を取ると、△4六歩などの叩きも含めてよくこういう場面が生じる。
▲3五歩からは暴れに行った手だが、▲6四歩に△3六歩と攻め合ったのがいいタイミングだった。▲同金は△6四歩▲同飛△5七角成▲4四歩△5三金▲6一飛成に△3五歩が痛い。
そこで東大は▲6三歩成と攻め合ったのだが、飛車を見捨てて△4六角が強く踏み込んだ手。▲5二と△3一金▲6一飛成に△4七銀で手勝ちという読みだ。しかし、いくら駒が急所に行っているとはいえ、なかなか決断できるものではない。ここで激指が勝ちになった。
最後も綺麗に決めた。
▲7一飛と攻め合った手にいったん△4一金。
▲同とでは駒が重複するので攻めにならないし、▲同龍は△同銀▲同飛成に△3七歩成からばらして△3六歩で詰む。▲3一銀は仕方がないか、△1三玉と逃げて先手の飛車二枚が燃えないゴミになってしまった。あとは△3九銀から簡単な寄せである。
激指の強さが存分に出た一局だと思う。
4回戦 棋譜はこちら(別窓で開きます)
東大の先手。東大の四間飛車穴熊に激指は銀冠。△2三銀の瞬間を捉え、東大は積極的に飛車交換を挑んだ。
▲8六同角に△8七飛も検討してみたい気はするが、▲8二飛△8九飛成▲5二飛成△8六龍▲5三龍△8九龍▲6三龍に△2五歩とじっと突き出す手が次の△2六歩を見て、わずかながら後手が指せる展開だと思う。激指は定跡ファイル通りに△8二飛と指し、東大も▲8八飛と打って急に地味な展開に戻ってしまった。▲8五歩△8三歩などはどーなのよ? と思わないでもないが、仕方がないのだろう。
△9五歩▲同歩△同香▲8六角でやっと定跡から離れたが、△9九歩成とした局面は激指優勢だと思う。▲8四歩からの攻めは駒損覚悟の穴熊流だが、これも少し足りない感じだ。
しかし、▲8二龍に△4四角が痛恨の悪手。
▲5六桂が激指の読みに全く入っていなかった好手で、一気に先手有利となった。
あとはじくじくとと金をすり寄っていき、手に入れた駒を打ち込んでいくだけで後手陣は崩壊。こうなると穴熊は強い。
東大将棋の圧勝。
5回戦 棋譜はこちら(別窓で開きます)
東大の先手。相矢倉の出だしだが、▲4六歩が注文をつけた手。以下、銀が4七〜5六〜6五〜7六と大遠征して玉頭を厚くする将棋となった。
しかし激指の△7三桂から△8五桂が機敏な手で、早くも銀桂交換の駒得。ところがこれが定跡というのだからもうなんと言うか……。双方ともに55手目▲5六桂までが定跡手順。
▲7四歩がなんとも面妖な手だ。
例えば普通に△同銀と取られたとしてもどんな意味かあるのかよく判らない。一応、▲4三歩成△同金直▲6二角成△同飛▲4四歩△4二金引▲7三角△6一飛▲8四角成の時に銀当たりになり、△6三銀▲7四歩と攻めが続く……とは読めるのだが、それでも△3七角から香を取って△4六香と飛車を捕獲する手もあるし簡単ではないと思う。それ以前に、そこまで読んで東大が指したのかどうかも判らない(笑)。
しかし激指の指し手は△8四角。▲7四歩ぬるしと見ての攻め合いだが、これは東大にとっておいしい展開。▲4三歩成と成り捨て、▲4五桂から▲5三桂成と攻め込んで行った。
ここでしっかり△5二銀打とでもしておけば優位を保てたと思うのだが(▲7三歩成は△5三銀、▲6三とは△9九角成▲8八銀△7七香で寄り)、激指は有利と見て△9九角成、△8八歩と激しく攻め合い。以下、△4七歩までは全て激指の読み筋である。
ところが、既に勝てない形勢だというのだから驚きだ。
東大将棋の放った▲4四桂打が決め手。
本譜が示す通り、実はこの手は詰めろなのだ。
激指はそれに気づかず△4八歩成としてしまい、▲3二桂成から詰まされてしまった。
決して短くはない詰み手順だが、完全に激指の読みに入っていない(激指側から見れば)トン死の一局。全くないわけではないが、コンピュータにしては珍しい結末だと思う。
6回戦 棋譜はこちら(別窓で開きます)
東大の先手。横歩取り8五飛戦法になった。横歩取りは一発入っておしまい、という戦形なので、棋力もそうだが知識量で決まってしまうところもある。
ところが。
東大が▲9六角という、それが手になったら8五飛戦法は成り立たねぇだろーよー、という変化に飛び込んだ。よくよく見れば、8五飛戦法1号局ではないか(笑)。第56期C2順位戦・松本桂介4段vs中座真4段戦。実戦の進行を知らないのでなんとも言えないが、不利な変化に飛び込むソフトってのはどうなんだろう? ちなみに、激指は70手まで、東大は71手まで定跡だった。ちなみに東大は、▲8五同桂のあと△2七歩成▲同金△6四歩まで入っている。
桂を犠牲に飛車を打ち込んだのだが、激指の△2七歩成から△4五角、△6四歩という受けがうまく、東大はなかなか飛車を働かせることができない。十字飛車を見せつつ6筋に嫌味をつけ、龍を作るのが精一杯だ。
▲3四歩からは東大必死の手作り。しかし、コンピュータに「怖い」という感覚はないので、△3三同玉と玉が露出しても全く苦にせず△2七角成と成り込む。次に△4九馬とか△4九角があるので先手になっているのだ。東大は▲6八玉とかわしてから清算して▲4五銀打と攻防に打ったが、△9四馬が冷静な一手。これで完全に受け切っている。最後も△2五歩としゃれた中合いで決めた。
7回戦 棋譜はこちら(別窓で開きます)
東大の先手。初手から▲5八飛△4四歩というなかなか味のある応酬(笑)で相振り飛車へ。さすがにこういう定跡は入っていないようで、激指は20手で、東大も23手で定跡ファイルから別れを告げた。
▲7四歩に△6四歩と突き違いで突っ張ったのが頑張った手で、激指は矢倉に組めた。相振り飛車では大きなポイントだと思う。そして△8四銀から△7五歩、△6五歩が驚愕の構想。譜に見るように、△6四金と出て5五歩をタダ喰いしようというのだ。玉形が乱れるので白砂ならたとえ思いついても指さないと思うが、これは驚いた。そのあと角交換から△3五銀まで、とりあえず激指の主張は通っている。
▲5二歩の反撃に△2六歩から△6六歩がまたいいコンビネーションだった。▲6六同歩なら△4五角から△2六銀で攻め切れる。▲5一歩成はこれくらいしかないが、△6七歩成から△4六歩ととうとう「ウサギの耳」に手がかかった。
東大の▲5三角成に△2七歩と突っ込んだのも英断だったと思う。単純に△7三銀くらいでも激指が十分だと思うが、行けると思った時に踏み込むのが激指3の特徴である。金銀を取られたものの、△2八角とごつく打って攻めは切れない。そのまま激指が押し切った。
新しい激指のよさがよく出ている一局。
8回戦 棋譜はこちら(別窓で開きます)
東大の先手。東大の矢倉に激指が6二飛戦法を見せた。最近はあまり見ない形だが、破壊力は抜群だ。
歩得+銀が手持ちの激指に対して、厚みを築く東大。激指は62手目△1六銀不成としたところまで、東大は65手目▲8三銀と打ち込んだところまでが定跡。個人的には先手乗りかなぁ……と思うのだが、コンピュータは両方とも、と金を作って銀と桂香の交換だし後手優勢、と読んでいるようだ。後手は玉側から攻めて行っているし、次の▲5四銀も厳しそうなんだけど……
激指の回答は、▲5四銀に△5七歩。しかしこれ、▲同飛△4五桂打(激指の読み筋)に▲5六飛でどう見ても先手優勢。どうなってるんだこれは。
しかも、東大はその変化には飛び込まずに、▲5三銀不成△5七歩成▲6二銀成△同角▲6一飛の変化を選んでしまう。これは△5一角で攻め切れない。いや、▲5二歩も十分に厳しいのだが、激指の放った△6九銀がそれ以上に厳しい。例えば▲8一飛成で▲5一歩成と攻め合うのは、△5四桂▲5二と△4六桂と角を抜く手が詰めろ逃れの詰めろになる。以下▲7七金打△同銀成▲同金△6九飛▲8八玉△6八金打▲1三角(!)△同玉▲1一龍△1二歩▲1八香△1四角▲同香△2四玉までで後手が逃げ切れている。
本譜の▲8一飛成にもやはり△5四桂が厳しい。東大は▲1四桂から端を攻めたが、やはり「▲5一歩成△4六桂が詰めろ逃れの詰めろ」というパターンから逃れられなかった。
▲5四銀とさせるようではおかしいと思うのだが、△5七歩に▲同飛とは今のソフトは指せないのだろうか? 指せないからこそ、激指もその変化はやれると飛び込んだのだし、東大もその変化を避けたはずだから。
9回戦 棋譜はこちら(別窓で開きます)
東大の先手。3手目に▲9六歩と様子を見、激指の△4四歩を見て▲7八飛と三間飛車に振った。それに対し激指も向かい飛車に振り、相振り飛車へ。
相金無双の非常にオーソドックスな戦形である。定跡は激指が46手目の△5四銀、東大は47手目の▲7六銀でおしまい。
激指が飛車先を交換した瞬間に東大が▲8四歩。△同歩▲同飛△4三金と形を乱すのかな……と思っていると、続けて▲9四歩△同歩▲9二歩△同香▲6五角と指した。うーんビックリ。
△8三角は▲3二角成△5六角▲8四飛△2四飛▲2七歩△7八角成▲3三馬△同銀▲2四飛△同銀▲8四桂△8三玉▲2一飛でなんとか攻め切れていると思う。手順は長いが、要するに角桂交換してでも▲8四桂と打って玉形を乱そうという手順である。本譜は△7四歩と近づけて受ける手を選んだが、▲同角△8五歩に▲8八飛が冷静な好手で一本取った。局後の表示を見ると、激指は▲8三銀で▲7四銀と出る手を本線に読んでいたらしい(うーむ……)。
▲9二銀成に更に△5一玉と逃げなければならないのが辛い。これでいったん▲2七歩の余裕が生じた。先手陣は鉄壁となり攻めに専念できる。その攻めは▲7四歩の垂れ歩でつながる。こうなると紛れようがない。
激指も早逃げで粘ったが、▲6三とと捨ててから▲4三金とへばりついたのが好手。持駒角角桂ではどうにも受けられない。最後は▲7五銀と遊び駒を活用して勝ち切った。
10回戦 棋譜はこちら(別窓で開きます)
東大の先手。東大の四間飛車に激指は居飛車穴熊。激指が△2四角と揺さぶりをかけ、うまく穴熊の堅陣を作った。陣形の差で、まずは激指が有利になったと思う。激指は58手目の△4三金で、東大は61手目の▲7五銀で定跡から離れた。
▲5五歩に△4五歩の切り返しが好手で、激指が更に一歩リード。5六飛の形が悪く、△8九馬と桂を取った手が飛車に当たるのが先手の泣き所だ。▲6四銀では▲6六銀と辛抱するべきだったかもしれない。いったん▲5九飛と辛抱ののちと金を作ったものの、△5六香で飛金交換。△5七桂不成まで後手の駒がきれいに捌けた。と金も大きいが、これは穴熊の将棋だろう。
しかし、金取りを放置して▲3三香が勝負手だった。△同桂▲3二金となってみると△6九桂成のヒマがない。△6九桂成は▲1三歩と逃げ道を封鎖しておくのが好手で穴熊は寄ってしまう。△2一桂はこれくらいの受けだが、▲3一金から▲3二金、更には▲4三銀としがみついてこれは一目寄り形だ。
激指は△3一香と捨て駒で受けたが、これも▲同とと取れば、△6九桂成▲3二銀成△同金▲同と△2二金▲4三銀△5九成桂に▲2二と△同玉▲3二金△1三玉▲3四銀成が▲1四香以下の詰めろなので先手勝ち……と思ったら東大は▲2二と。金の方を取ってしまった。これでは△同玉で続かない。3一香の外堀を生かしていてはまずい局面なのだ(駒がたくさんあれば▲4二銀打とかで攻めが続くが)。▲5八金△7八飛成の展開は明らかに東大の失敗である。
その後も快調に攻め続け、これは決まったか……と思った128手目。事件は起こった。
激指は△2六龍でほぼマイナス無限大の勝ち宣言。▲2七歩△1七銀▲同香△同龍▲同玉△1五香▲1六桂。この間ずっと詰み宣言が続いている。ここで△同香と取って▲同玉△1五歩となれば即詰み。しかし激指は△1八金。▲同玉△1六香▲1七桂合で不詰めである。
何かのバグがあったのだろう。アップデートv1.01で早速「詰みではない局面を詰みと認識してしまうことがある問題を修正」とあるので、それが出たのかもしれない(本編にも書いたが、ピュアな状態で検証するため、敢えて修正パッチは当てていない)。それにしても、前回に続いてまたかよ……という思いは拭えない。
この直後に東大将棋が悪手を出したので助かったが、▲2六金で▲1二歩成△同玉▲5二飛と一枚使わされていたら攻め駒が足りなくて勝てなかったと思う。
ちなみに、最終盤、△2一角合に▲3二成桂は△2五桂でトン死する。▲3二銀成と攻めたのもそのためで、▲3三桂成は△1一玉でやはり△2五桂が残る。「遠さ」を生かした穴熊らしい逆転の筋だ。ついでに書いておくと、激指は▲3二銀成で▲3三桂成を予想していた。大丈夫か激指の終盤……(泣)
11回戦 棋譜はこちら(別窓で開きます)
ここからは激指が先手番。相矢倉から東大が積極的に△7五歩と仕掛けた。申し訳ないが不勉強のため、後手番でこういう手を指されたのを始めて見た。確か先手番▲3五歩早突きの解説で「▲2六歩(ここでは△8四歩。以下同じ)と突いてあると、▲1八飛と寄った時にいつでも▲2七銀があるので損」というのを読んだ記憶があるのだが……。
こんな形でもしっかり定跡は登録されていて、激指は33手目▲3五歩まで、東大は38手目△6四角まで定跡の範囲内である。しかし直後に角交換して▲8三角と打ち込んで、これは激指が有利だと思う。大丈夫か東大将棋(笑)。
お互いに入城したが、やはり馬がいる分東大は動きが制約される。△2四歩は苦しくなって仕方がなく指したと思うのだが、こんなところの歩を突いて幸せになった人はいない。この辺の感覚が人間とコンピュータの違いだろうか。△6五歩にあっさり▲同歩と取って馬作りを許したのもコンピュータらしい淡白さで、人間だったらもう少し抵抗すると思う。おそらく▲6六銀△5三馬の局面での厚みや1歩得などを評価したものだろう。
▲2五歩に東大は飛馬交換だが、▲2四歩の取り込みが厳しい。△1四角と手放すのでは失敗だろう。ただ、△2六歩からの攻めもなかなかうるさい。桂を外して△4七角成とこの角が働くようだと事件だ。
これに対する激指の指し手がうまかった。△2三歩▲4一飛△2四歩▲2三歩△同角▲9一飛成。銀を敢えて取らせ、▲2三歩と叩いて角を無力化した。▲2三銀成などと駒を惜しむと、△同玉▲4一飛△3一歩▲9一飛成△4七角成でバカ角が生き返る。この角は盤上に置いたままいじめるのが正しい感覚で、激指はよく判っているようだ。
東大は△6九銀からと金を働かせたが、▲2四飛と飛び出た手が詰めろなのが痛い。△3三金▲2八飛に△2四歩が省けず(逆に▲2四歩と打たれると痛い)、▲5八飛とせっかく働かせたと金を取られてしまった。
しかし、△7五桂からの攻めも相当なものだ。この辺りの攻防はぜひとも鑑賞して欲しい。▲7六金打▲7七同玉の強い受け手順。馬を切って△4九銀とからみ、飛車を奪って攻める東大。一瞬の隙を突いて▲8六角と切り返す激指。先手を持ってこれをしっかり勝ち切れれば立派な有段者だと思うし、また、ここまで先手玉に攻め込めるのも立派な有段者だと思う。
双方の強さが存分に出た名局。
12回戦 棋譜はこちら(別窓で開きます)
激指が先手番。藤井システム風の出だしに東大が素早く△4四角と反応し、激指も▲7八金の変化球で応じたため、結局右玉に落ち着いた。端を攻め、逆襲し、馬を作り合うところまで全て定跡なのだから驚く。ウソ臭い手順だなーとも思えるのだが、例えば△1四玉に▲2九香などとしても△1八歩くらいで続かない。意外とバランスが取れているのだ。
結局定跡手順は双方ともに70手目△2六馬まで。
激指はこの局面を先手優勢と見ているようで、△2六馬を疑問手としている。▲1六歩以下、しばらくは評価値が1000前後が続く。
しかし、飛車を取らせて▲1四馬△同玉▲1六香辺りからおかしくなり始め、▲2四銀△2八飛(激指は△3七とを予想)としたところでは評価値はマイナスに転じてしまった。やはり、入玉将棋は「駒得してもトライされてしまえば負け」という場面が多々あるので、コンピュータには難しいのだろう。
金をボロっと取られ、△8九金と下から追い出されて将棋は終わった。ちなみに、ここでも激指は△4一玉と予想を外している。
選んだ戦形が不運だったと言うよりないが、そういう変化を外すようにチューニング(プログラムというレベルではないと思う)されていない現在のソフトはどうなんだろう? 人間なら、厭な変化には飛び込まないというのは基本中の基本だと思うのだが。
13回戦 棋譜はこちら(別窓で開きます)
激指が先手番。相矢倉風の出だしから東大が△3二銀と変化し、後手が中飛車に。その後、7筋の位を取った先手に東大が反発し、それを迎撃して▲7八飛。更に△7二飛から飛車交換という驚愕の展開(笑)へ。
左美濃のシンプルな形が生きて、これなら東大がいいのでは……と思っていたら、激指はじっくり▲3九金。これであとは後手の桂香を拾えば自動的に駒得という手か。それなら▲6四飛成では▲9一飛成だろうよーとよくよく調べてみればこれ全部定跡なのね。うーん……。激指は△5七角の両取りに▲7五角と打ち返したところまでが、東大は△5三歩と逆先を取って受けたところまでが定跡だった。
△5八銀と捨ててから△7九飛と打ったのがうまい攻めで、東大が有利になった。▲8四龍の瞬間は金桂の丸損だが、玉の安全度が違う。△7八角から△5六角成と開き王手で一枚取り返し、▲5五角にも△4四金とがっちり打って崩れない。
ところが、▲4六角に東大が間違える。
普通に△同馬▲同龍△7七龍としておけば有利だったと思うのだが、△6六馬から寄せに行ってしまう。上へ上へ追ってしまうだけでも悪手だし、▲4二銀の一発を喰ってしまった。馬が抜けては大逆転である。
東大は△5九飛と打って粘る。△8三銀としばっても▲6七龍と銀を払う手があるので無効なのだ。△5九飛に▲6七龍だと、△7九飛成と角を奪っておいて、▲3一銀△同玉▲4二金△同玉▲6二龍に△5二角合が逆王手で詰まない。しかし、▲6二龍と入った手が詰めろで、△3三銀打に▲4六角と逃げ出せては△5九飛は完全に空振り。ここで勝負は終わった。最後は▲2四歩と軽く突いて終了。
14回戦 棋譜はこちら(別窓で開きます)
激指が先手番。後手東大の藤井システムに激指の居飛車穴熊▲7八金型。
ダイレクトに△8五桂と跳んだのは、恥ずかしい話だが初めて見た。慌てて手元の棋書で調べてみたのだが、どうもこの形が載っていない。『これが最前線だ!』のP43にさらっと書かれている程度。『島ノート』にも同一の局面はあるが、いずれも△6三銀という指し手を紹介しているのみだ。
実際、激指・東大ともに定跡ファイルはここで終わっている。東大は△8五桂に▲8六角△6五歩▲5五歩で止まっているが、これは前述の棋書に「これで受け切れている」と書かれている変化だ。その変化に飛び込むか東大……。
▲5五歩から▲6六金という進出がよくある受けで、更に▲6七歩としっかり受けて激指が押さえ込んだ。
端攻めから△6二香は東大必死の攻めだが、激指は▲9六香と慌てない。△6六香と金を取っても▲同銀で形がよくなるだけなので、さほど怖くないのだ。よって△6五歩だが、▲5四桂の切り返しがまた厳しい。▲6五金まで、激指の受け切りである。
玉を逃げ出す東大に▲2四歩と着実に攻め、△3三銀にはバッサリと▲同龍と切って落とす。最後は▲2四歩から▲2三香まで、綺麗に必死をかけて決めた。
有利な変化ではあったのだが、それを差し引いてもうまく指し回した。激指の快勝と言っていいだろう。
15回戦 棋譜はこちら(別窓で開きます)
激指が先手番。東大がいきなり原始棒銀風の出だし。そして、▲6五歩を見るや△7二銀と引き、△7四歩△7三銀△6二飛から速攻。かなりの手損なのだが、現実に銀歩を手持ちにしている得もある。29手目▲6六銀までが激指の定跡。一方の東大は△9二飛までが定跡だ。
結局、激指も角の上下で手損をしているので、ほぼ手の損得は関係なくなった。東大も△6三歩と打ったので歩は手放したが、銀は手持ち。この差がどう生きるか、生かすかという序盤戦である。
8筋の歩交換から桂交換と、順調にポイントを積み重ねていく東大に対し、激指は▲4八飛・▲2八銀と右往左往。この辺り、先の見えにくい陣形に組んでしまった激指がやり損なっている感じがする。というより、序盤から変則的に立ち回った東大が激指を幻惑した感じか。
▲2六桂は期待の攻めだが、△5一角と引かれてみると桂損確実。実際の将棋はここで終わった。激指の形勢グラフも、この辺りからずっと後手優勢で終わっている。
▲8八角から▲6八銀は桂を犠牲になんとか暴れようという手だが、△4四桂と角筋を止めたのが冷静な受け。次の△3六桂を見て先手になっている。仕方がない▲3七銀に悠々と△3四歩と取り込み、▲4六歩にも△3三桂と受けて万全。激指は指す手がない。
以下は長いが見るべきところはない。東大の△4二銀・△4一金打の激辛流くらいか。友達をなくす指し方で、指せば指すほど形勢が開いていく。人間だったらさっさとリセットだな(笑)
東大の完勝だと思う。
16回戦 棋譜はこちら(別窓で開きます)
激指が先手番。▲7六歩△8四歩スタートから、東大が陽動振り飛車へ。たまたまかもしれないが、後手番の東大将棋はなかなか奔放な動きを見せてくれる。
陽動振り飛車は8四歩をどう咎めるのかが焦点の一つだが、激指の選択は「無視して速攻」。確かに、後手番である上に△8四歩の一手を余分に指しているのだから、急戦策は一つの考え方だろう。これに対し、東大も無理に受けることはせず、△3五歩と取って銀を呼び込んで△5一角。陣形を生かしたカウンター狙いである。
この辺りは定跡ファイルにある進行で、激指は65手目▲5二歩まで、東大はそこから△6二角▲7四銀△同歩と進んだところまでが定跡となっている。個人的には、振り飛車党だからかもしれないが、△7三角とのぞいた味がよく東大有利な気がする。
東大は△2七銀から△2八角成と馬を作り、更に飛車を切ってから△6四馬とその馬を活用する。駒割りは飛銀交換の駒損で、桂香も拾われてその損は更に広がりそうなのだが、盤面の制圧具合と玉形の差、駒の働きの差で指せるということなのだろう。正直それで本当に東大有利かは疑わしいのだが、振り飛車らしい指し方ができていると思う。
対する激指は▲1二馬と駒得を主張する。しかし、結果論だがここは▲2一馬と取っておきたかった。というのも、△8六銀から玉を追って△3三桂という捌きが気持ちよすぎるのだ。激指も▲5一歩成から▲3一飛と両取りをかけて対抗するが、△2五桂から△3七歩成がなんと詰めろ。△2七とと飛車を取った形は、次の△2八飛が厳しく東大が優勢だろう。
東大は△2八飛から△3八と、△7八金と活用。この△7八金が詰めろなのが大きい。激指は▲7一銀△9三玉▲4五馬と詰めろ逃れの詰めろで応酬するが、△4八とから△6八金(取れば詰み)と追ってから△5四銀が受けの決め手。▲2三馬と逃げるしかないのではもう勝てない。
ところが、実はここでもまだ激指は自分が有利だと思っているようなのだ。
ようなのだ、と推測なのは、検討モードで調べると、△4五歩が詰めろで-1132後手優勢、と出るから。局後のグラフでは、この辺りずっと先手有利になっていて、矛盾しているのだ。
もっとも、検討モードで見ても、△4六香が指しすぎでそこから先手優勢に振れ直す。ここでは△2九飛成が詰めろで後手優勢だった、という読みらしい。しかし△4六香もここから連続王手で詰みまで言っているので、これでも後手の勝ちだ。
よくよく調べてみると、△5五金が読みになかったようで、ここでは△4五銀が最善手だが先手有利となっていて、ここで逆転している。けど、△4五銀も▲同玉△1二角で詰んでいるのだが……(笑)。
なんか激指の不可解な読みだけが目立ってしまった。「121手目▲2三馬となってはもう負ける気がしませんでした」と断言した東大は凄い(笑)
17回戦 棋譜はこちら(別窓で開きます)
激指が先手番。角換わり腰掛け銀に。ただ、▲2六歩△3四歩▲2五歩△3三角から角を交換したので、後手の飛車先は8三で止まっている。これがどう影響するか? という将棋だ。
端で手に入れた1歩を使って▲7五歩から角を取り、しっかりと▲6八歩と受ける。どちらも定跡ファイルに入っているようで、双方とも66手目△1四歩まで定跡だった。
▲8四とと受け切りを狙う激指に△7八金から暴れる東大。▲8六銀で簡単に受け切ったと思ったのだが、意外とこれが厄介だった。△1五飛に単純に▲1七歩と受けると、△8八歩でややこしいことになるのだ。▲7七桂は△9六香▲9七銀△9五飛で必死。▲9七玉と逃げ出すのが最善だと思うのだが、△8九歩成▲4五歩△同銀▲9一角成△5六銀(詰めろ)▲2五桂△6五銀でどうか。難しい戦いだ。
激指はこれらの厄介な変化を避けて▲8八桂。△8五歩▲9七銀と、入玉は諦めて受ける展開になった。
▲7七桂から▲8五桂は、火種を払いつつ捌きに出た手なのだが、▲4五歩が少し元気がよすぎたと思う。ここは△2二玉と辛抱した手に敬意を表し、▲6四角から再度入玉を目指すのが最善だったと思う。銀が入ると△8九銀の一手詰めがあるのだ。ギリギリのタイミングで金は外せたが、代わりに△1八飛成と突破されてしまった。
やられたと思える局面だが、ここからの激指が粘り強かった。
▲2八金から▲2五香と龍を封じ込め、▲9一角成と根元の香を外して再度入玉を狙う。この粘りに東大が間違えた。
▲8九銀に△同金が素直すぎた。ここは△7七歩とし、▲同歩△7八銀▲同銀△同金とすべきだったと思う。これで再度▲8九銀なら△6八金として△6七歩成が狙えるし、▲4九飛にはここで△8五歩と取っておけばまだまだ戦える。
本譜は△5八銀と攻めたものの、▲2六飛で△2六龍を消され、更に▲1八香で龍を殺されてしまった。△1六桂と受けるのでは辛く、ここからは激指が勝っていると思う。
△1六桂で△2五龍▲同歩△6七歩成▲同歩△同銀成の攻めが利けばいいのだが、▲7八金△6五香▲6二飛△7八成銀▲同玉△6八金▲8九玉△6七香成▲9八玉△7八金▲8九銀△6六歩の時、▲2四歩が厳しく後手が勝てない。△同銀は▲1二歩△同香▲1一角△同玉▲3二龍△2二銀▲2四飛△3三金▲1四飛だし、△同歩には▲2三歩△同玉▲4一角△3一銀(△4二金引や△4二銀は寄り)▲7八銀△同成香▲9六銀と逃げ出して先手が勝てる。
▲4六馬から▲5六歩と大駒で遠くから受けたのが決め手で、後手は激指玉を攻め切れない。最後は▲1二歩から▲5二馬まで左右挟撃体制が整って激指が寄せ切った。
18回戦 棋譜はこちら(別窓で開きます)
激指が先手番。東大の矢倉中飛車。
▲7五歩の牽制に△5一玉と戻るなど不可解な動きを見せた東大だが、後に△7四歩と突けば必ず戦いになるので、それに備えたものだろう。
激指は▲6五歩と仕掛けたが、これはどうだったか。ここは▲2六歩と突き、△7二飛▲2五歩△7四歩▲同歩△同銀▲8六歩のような戦い方の方がよかったと思う。それでも難しいところはあるのだが、少なくとも自玉頭からいきなり攻めるよりはましだ。
しかしこれは定跡らしく、双方とも50手目△8二飛まで登録されていた。とはいえ次の▲6四成銀で-194後手有利、とはどういうことだ(笑)。
本譜はダイレクトに△5五角が決まってしまった。▲6六角△6四角に▲1一角成と取り返せないのでは銀1枚丸損だ。仕方がない▲6五銀に、もらった銀で△5五銀と攻め、そのまま押し切ってしまった。
エアポケットに入ってしまったような、なんとも不思議な一局だった。この将棋だけを取り出したら、激指が有段だとはとても言えないだろう。
19回戦 棋譜はこちら(別窓で開きます)
激指が先手番。東大の中飛車穴熊に、激指は銀冠で対抗。
激指は35手、東大は36手まで定跡があったが、3六歩・3七桂の形で持久戦にするのはどうかと思う。事実、さっそく△3五歩▲同歩△7五歩と攻められてしまった。▲同歩は△同飛▲3四歩△1五角が意外とうるさい。激指は▲6八角と辛抱したが、△7六歩と取り込まれて▲4七金とするようでは作戦失敗は明らかだ。
ところが、△7五飛から△3四歩と更に攻めたのがやりすぎ。ここはゆっくり△3一金から△4一金、△5一金として相手を焦らせてみたい。△3四歩は▲4五歩の切り返しが当然ながら好手で、こうなると4七金と上がった手が働いてしまうのだ。ここは陣形の差を強調する意味でも△3一金が「最善手」だと思う。
結局▲3五金▲4五桂とどんどん先手の駒が伸びてきて、△4二金打と受けるようでは失敗だろう。 しかしここで今度は激指が焦る。▲3六飛と素抜きの筋をかわしておけばあとはゆっくり攻められたのに、▲5三銀と決めに行ってしまった。
△同金とは取れないし確かに強い手なのだが、△3三桂と防がれてみると雲行きが怪しい。▲2四歩に△4五桂▲同歩△7七桂と穴熊流の攻めが炸裂した。
▲7九金に桂を取ってから△8七桂と打ち、△9九桂成から△7七歩成▲同角△7二香としたのがまたうまい。とにかくはがす、ばらすが穴熊の攻めである。
全部交換して△7六歩とくさびを入れ(▲同金は△9六銀くらいで寄り)、▲8七金に△7九角と打つ。これくらいの攻めでも十分なのだ。
結局、王手を一回もかけさせることなく激指玉を寄せ切ってしまった。
20回戦 棋譜はこちら(別窓で開きます)
激指が先手番。ラストの一戦は東大のゴキゲン中飛車。
激指は▲7八金型を選択。定跡は双方70手目△6四歩まで入っているが、終わったところで激指の判定は609で先手有利となっていた。
▲2五龍からパクパクと歩を食べ、馬と交換して▲2一飛と打ち下ろして激指好調。△2八飛に▲1八角と受けたのも手堅い。
その後も着実な攻めで大駒を全部奪い、▲6六歩と激辛の一手が出て将棋は終わった。
定跡ファイルの力という気もするが、激指の完勝。