コンピュータ将棋レビュー

第13回世界コンピュータ将棋選手権 
決勝


●7回戦(最終戦)

●東大将棋 vs ○激指
  http://www.hakusa.net/shogi/kifuup/kifu/225.html

 激指のシード権を賭けた闘い。相手次第とはいえ、是非とも勝っておきたいところだ。
 戦形は相矢倉。激指は意欲的に早囲いを目指す。7筋不突き、端歩を突き越して△9三桂から△8五桂と、構想が全て実現するという理想的な展開となった。もちろん、書いた絵が形になったからといって即優勢というわけではないのだが。
 一方、東大将棋は▲4六銀としておきながら、▲7五銀と不自然な動き。△6四銀▲同銀△同歩となり、後手は銀交換+△6四歩の一手を指したことになる。▲3五歩から動いても銀バサミもない形だし、どうしたのだろうか。
 更に▲5七金もよく判らない手で、角道が二重に止まった。もう先手から攻める手は難しくなっている(今度▲3五歩としても△4五歩の銀バサミがある)。
 激指は△6五歩から△9七桂成、△8五歩と軽快に飛ばす。▲8五同歩は△9七角成からタコ殴りにされそうなで▲7九桂と受けたが、これでは苦しい。△9六歩からあっという間に寄せてしまった。
 激指の快勝で、激指はシード権確保。

●KFEnd vs ○銀星将棋
  http://www.hakusa.net/shogi/kifuup/kifu/226.html

 激指が勝ってしまったため既にシードはなくなった銀星将棋だが、ここはきっちりと勝っておきたい。
 銀星将棋の四間飛車にKFEndは居飛車穴熊。銀星将棋は浮き飛車戦法を選択した。
 △3六歩からの1歩交換は軽快だったが、▲6五歩に△4四銀が疑問手だった。ここは△7七角成▲同銀(▲同桂)△3二金、もしくは単に△3二金で十分だった。このあと▲2四歩には、△同歩▲同飛に△3三桂と跳ねて△2五飛を狙う。
 △4四銀だったので、▲2四歩から▲4四角の攻めが炸裂した。△2二角打つしか手がないのでは振り飛車が苦しい。以下、△2九飛成まではKFEndが優位に立った。

 しかし、ここからの銀星将棋はなかなかしぶとかった。
 △2八歩と一発叩いて飛車打ちのスペースを作り、更に△2七歩。うまく龍を消して、逆に△2九飛と先着することができた。これで桂香を拾えれば勝負形だ。穴熊は桂香に弱い。
 これにKFEndが困る。振り飛車陣はスペースがないので、大駒を持っていても打ち込めないのだ。▲6二歩から▲3三歩は必死の手作りだが、▲2一角しかないのでは先手もいいとは言えない。ここでは先に▲3三歩と打つのがよかったろう。△同桂には今度は▲2三歩と打つ1歩がある。▲2一金も感触の悪い手で、△2二同龍となってみると逆に後手が桂香得している。
 ▲3四歩から▲4一飛はこれしかない攻めだが、△5二銀打から△6三歩と追い返して崩れない。更に△5三金から△4三金と金銀4枚を固める形となり、後手陣は手のつけられない格好となった。振り飛車の理想のような勝ち方だと思う。

●永世名人 vs ○AI将棋
  http://www.hakusa.net/shogi/kifuup/kifu/227.html

 大会的には消化試合になってしまったが、同星の2位と星1つ差の2位とでは内容が天と地ほど違う(……とまで言うのは大袈裟か(笑))。AI将棋としては取りこぼしは許されない。

 相矢倉から永世名人が素早い仕掛け。一応ない形ではないが、定跡にある3五歩早仕掛けは△3一角と引いている形なので、▲3五歩には△6四角という手がある。この場合はその手がない代わりに、▲2六歩を突いているので▲2六角の余地が消えている。
 どちらが得かは微妙だが、AI将棋は悠然と駒組みを進める。結果、▲6七金右まで、絵に書いたような理想形ができあがった。そうして△5一角の瞬間に仕掛け。▲9六歩も入れておきたいところだろうが、△7三角との交換は明らかに後手が得なので、ここでの開戦は正解だと思う。
 しかし、△2四同銀に▲2五桂はどうだろうか? ▲2五銀というのが形だと思うのだが。それでも、▲3三歩から猛攻を開始し、△3三同玉まで後手玉を引きずり出した。
 ところが、ここでの指し手がなかなか悩ましい。
 永世名人は▲5二とから▲5一と。角を取って馬を作り、なんとか喰らいついていく。▲6八歩で自玉は鉄壁となったので、あとは攻めるだけだ。▲2七銀から▲2六歩で防壁を作るあたりはかなり「いい感じ」で、この辺では見ていて「勝てるかも」と思ったのではないだろうか。
 ただ、▲3四馬はどうだったか。▲3六桂△3三玉▲3四馬△同玉▲4四飛△3三玉▲4一飛成と平凡に指しておいた方が紛れがなかったと思う。また、▲5三飛成でも一発▲3五歩と玉の動きを訊いて、△4四玉は▲3六桂△3三玉▲4五銀、△2四玉なら▲3六桂△1三玉▲8一飛成、△3三玉なら▲4五桂から▲8一飛成、といった感じで指せば有利だったのではないだろうか。本譜は△4九角がうまい手で、先手の包囲網が再び破れてしまった。
 最後はうまく飛車をぶん回してAI将棋の勝ち。1敗を堅守した。

○ハイパー将棋9 vs ●備後将棋
  http://www.hakusa.net/shogi/kifuup/kifu/228.html

 前局やっと片目を開けた備後将棋、ここは勢いに乗ってもう一つ勝ちたいところだろう。
 ハイパー将棋の四間飛車に、備後将棋は3枚美濃+棒銀。定跡というよりは早い▲5六銀に誘われた格好だが、△7五歩から角頭に襲い掛かる。
 ところが、▲7六同銀に△7二飛ではなく△4二角。その後も△3三銀から△3二金と組み替え、更には手待ちを繰り返して攻める気配が全くない。逆にハイパー将棋が▲5六銀▲4五銀と攻めかかった。6七にでっかい傷があるのでどうかと思ったが、桂馬を取られる間にと金を作り、なんとなく喰いついた格好である。いったん▲3七角と引いたのもうまい呼吸で、駒が入れば寄せ合いに行けると読んでいるのだろう。
 こういう手渡しに弱いのがコンピュータで、備後将棋が間違える。いったん△7二飛とでもしてと金に移動願えばよかったのだが(▲8三金は打たせてもいい)、いきなり攻め合ったために▲4二金がバカに厳しい手になってしまった。この攻めはほどけない。
 もっとも、ここで△7二飛というのは相当(感覚的に)難しい手だし、そもそもこれで本当に後手有利なのかも判らない。コンピュータには指せない一手だろう。
 ハイパー将棋が先輩の貫禄を示した将棋だった。

 プログラム名 1234567
2東大将棋(IS将棋) 先8○7○先6○先4○5○3○先1●  610
5AI将棋(YSS) 1○3○先4○先7○先2●8○6○  610
1激指 先5●6○先7○8△先3●4○2○  421
3銀星将棋(KCC将棋) 先7○先5●8△6△1○先2●4○  322
8ハイパー将棋9 2●4○先3△先1△6●先5●先7○  232
4KFEnd 先6○先8●5●2●7○先1●先3●  250
6永世名人 4●先1●2●先3△先8○7●先5●  151
7備後将棋 3●先2●1●5●先4●先6○8●  160

 最終結果は上記の通り。
 終わってみれば予想通りの3者が上位にいるという感じだった。

 銀星将棋は惜しいところでシードを逃した。最終戦、激指が負けていたらシードを取れていたわけで、本当にあと一歩である。冗談で「激指をシードに残すために東大将棋はわざと負けたんじゃ……?」なんて言葉もどこかで出ていたが、実際それが信憑性のあるものに聞こえるほど最終戦の東大将棋はおかしかった。単なるバグ、もしくはちよっとした読み違えであることを祈るが、▲7五銀や▲5七金は東大将棋の指し手とは思えないくらい酷い手だと思う(人間側の感想としては)。できれば、無駄な疑惑を残さないためにも、「どうもこんなことを考えててバカやったっぽいですねー」くらいの言葉でいいから読み筋を披露して欲しいと思う。

 下位陣はなかなか接戦で、かつ、それぞれに面白味のあるソフトだと思った。特に備後将棋の指し口は見ていて人間臭く、楽しめた。\2,000くらいで市販してくれるんであれば、手に入れていろいろ試してみたいと思う。そん時はみんな、nyとかに流しちゃダメだよ(笑)
 柿木や金沢がここにいたらどういう将棋をしたのかというのも興味深いが、そういう仮定は意味のないものだろう。今回の結果は、一つの世代交代と見てもいいと思う。もちろん、本当に世代交代がなるかどうかは、もう数年の動向を見る必要があると思うが。
 同時に、東大将棋とAI将棋の強さが際立っていることも証明された。結果だけではなく、こうして1局ずつ見て行くと、両ソフトの強さを実感できると思う。激指はもう少し頑張れ(笑)。ここのところ、トップ集団の後ろの方、もしくは第2グループの先頭、といった感じの地位になりつつあるのが寂しい。
 柿木、金沢はもっと頑張れ(爆)。

 最後になりましたが、棋譜の解説は全て白砂の脳味噌で行ってます。ソルコフ計算なんかは暗算で安全でちゃちゃっとやってるだけです。だから、間違いもいっぱいあると思います。ソフト開発者の皆さんも、そんなこと言ってくれるな、それは違うんだと言いたいこともいっぱいあると思います。
 どうぞ遠慮なく言ってやって下さい
 白砂に直接でなくても構いません。どこぞの掲示板に書き散らかすだけでも結構です(笑)。できるだけ拾い上げて、随時修正させていただきます。

 現在の最先端コンピュータの熱い戦いを、できるだけ多くの人に見て欲しい。そんな思いで書いた原稿です。楽しんでいただけたら幸いです

2003.5.15 白砂青松

 



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