コンピュータ将棋レビュー

第13回世界コンピュータ将棋選手権 
決勝


●6回戦

●KFEnd vs ○激指
  http://www.hakusa.net/shogi/kifuup/kifu/221.html

 シード権争いでお互いに負けられない相手。
 ▲7六歩△3四歩▲2六歩に△5四歩。▲2五歩ならゴキゲン中飛車になったのだと思うが、KFEndは警戒してか▲6六歩。
 以下、駒組みへと進むが、激指の△7二飛が不可解な一手。なにがしたいんだろう?
 KFEndの▲5六歩も早かった。普通に矢倉に組んでいればよかったと思う。さすがに居玉での▲5六歩は動きすぎで、△5二飛と迎撃されて▲5七歩では意味がない。金銀交換となり、まずは激指が1本取った。

 形通りに(ホントに形だけだけど)4六銀戦法に組むKFEndに、激指は△2七金と爆弾投下。銀なら喜んで打つ形なのだが、これがコンピュータというものか。しかし、この金を2六〜3六とうまく使い、KFEndの動きを牽制する。
 困ったKFEndは▲7五歩から▲7四銀。自玉頭だけに怖いが、もうそういうことを言っていられる局面ではない。しかし、△2四角に▲3五歩はどうだったか? 怖くても自玉頭から行ったのだから、ここは▲7四歩と行くべきだったと思う。もっとも、▲3五歩自体もいい辛抱で、疑問手というわけではない。じっと▲4七金と角に当てずに打ったのがうまい手で(▲3六金には△5六歩があるので仕方がないのだが)、▲8四成銀で今度は激指が焦る番になった。
 △6四歩〜△6五歩は権利だが、相手に1歩渡すので微妙ではある。KFEndは手に乗って▲6六銀から▲7五銀とし、なんだか入玉まで見えてきた。対する激指は△5八歩から△2八銀で必死の手作り。桂を持って△7六桂という読みである。それを許す代わりにKFEndは▲6三歩から飛車を取る……と、局面は壮絶な殴り合いを呈してきた。
 そうして飛角を振り替わって▲8一飛に△1九銀不成だが、ここで▲9一飛成が明暗を分けた一手。△8五桂と死んでいたはずの桂馬がいきなり急所に利いてきて、先手がいっぺんに苦しくなった。▲4一銀からは必死の攻めだが、1歩足りない。▲2四歩と垂らせれば先手も相当なのだが。
 激戦を制し、激指がシード権争いを一歩リードした。

●銀星将棋 vs ○東大将棋
  http://www.hakusa.net/shogi/kifuup/kifu/222.html

 前局で激指を屠った銀星将棋、勢いに乗って東大将棋も喰ってシード権確保できるか。また、東大将棋としても、ここで取りこぼしては前局の勝利の意味がなくなる。ここは絶対に負けられないところだ。
 重要な一局は、銀星将棋の三間飛車に東大将棋の居飛車穴熊へと進んだ。
 銀星将棋の▲6五歩から▲6六銀は、細かいようだがどうだったか。ここは▲4五歩と突き、▲4四歩△同銀▲4五歩△5三銀▲4六銀とこちにら銀を使っていきたいところだ。
 本譜は伸ばした6筋から東大将棋が逆襲する展開となったが、▲6八飛〜▲5七銀から振り飛車らしい柔らかい好手だった。続いて△4二角に▲4五歩と突き、この歩が取れない。ここでは銀星将棋が指しやすいと思う。
 △3三銀に▲4四歩△同金▲4五歩△4三金という展開になれば、先手が有利な展開が続いたと思う。この居飛車穴熊は固くない。▲1四歩△同歩▲1三歩から▲2五形も厳しそうだし、極端な話、▲3三角成△同金(△同角は▲6三歩)▲2五桂△3二金▲4四歩くらいでも指せるかもしれない。
 しかし、銀星将棋の指し手は▲4六銀。悪い手ではないのだが、この場合は当たりがきつい。△4五歩から大決戦となった。
 東大将棋の△7四角もいい感触だが、銀星将棋も▲5三金から▲4四歩と一歩も引かない。▲7一飛としたところでは、互角の勝負ではないだろうか。▲3八銀打と固めたのもいい。しかし、△3六歩に▲8一飛成はまずかった。ここは▲2九桂と受ける一手だろう。穴熊相手に喰いつかせてはまずいのだ。結局、△3七銀から喰いつかれて負けてしまった。
 作戦的には成功していただけに、銀星将棋の惜しい一局だったと思う。

●ハイパー将棋9 vs ○AI将棋
  http://www.hakusa.net/shogi/kifuup/kifu/223.html

 東大将棋が勝ったので、AI将棋にすれば絶対に負けられない一局。一方のハイパー将棋もシード入りが賭かっている。
 ハイパー将棋の四間飛車に、AI将棋は△1三角〜△3一角と不思議な動き。山田定跡は▲5六歩の形なのだが(笑)。そのあとも矢倉模様に組むなどやや不可解な指し手が続く。それでも、早くに▲5六銀と出た手を咎め、角頭からなんだかんだと手にしてしまった。
 その後の△8六歩〜△7三銀がうまい攻めだったが、ハイパー将棋も▲7八飛から頑張る。▲4五歩から▲5五歩と突き、▲7六飛と捌いたあたりでは先手も有望かと思われた。
 しかし、△4九銀と引っかけられてみるとこれが意外と厳しい。次に△5八銀成▲同銀△6八龍があるので▲8六飛から捌きに出たが、△4六歩が速度計算を読み切った一手。どうやっても一手足りない。
 AI将棋が1敗を堅持し、最終戦に望みをつないだ。

○備後将棋 vs ●永世名人
  http://www.hakusa.net/shogi/kifuup/kifu/224.html

 奇跡のシード権奪取に向けて頑張りたい永世名人(ここまで、一応筋書き通りの星になっている!)、なんとか初の1勝を挙げたい備後将棋。どちらも気合が入る一戦だ。
 永世名人が△4四歩と止めてから矢倉に組む形。備後将棋もやや変形ながらガッチリと囲い、飛車を4筋に回って攻めた。
 ところが、永世名人から△7五歩▲同歩△同銀とされると、▲同銀△同角が飛車取りになるのを嫌ってか▲5七銀。しかしこれでは△7六歩と嫌味な歩を玉頭に残すことになってしまう。
 ここから備後将棋は不思議な動きを見せる。
 まず▲4六歩と自分から歩を謝り、△8四歩を見ると▲4五歩。△6四角を嫌った手順なのかもしれないが、これに永世名人が騙される。△4五同歩でなんでもないと思うのだが、△5三角。すかさず▲4四歩△同金▲3七桂で、なんとなく勝負っぽい形になってしまった。△7二飛にも▲3五歩と味をつけてから▲4五桂と調子がいい。
 永世名人は△7七歩成と受けたがこれはもったいない。△7七桂と打ってしまった方がまだ攻め味があっただろう。△3四桂でも、△7七金とぶちこんでガンガン攻めたかった。一瞬の猶予を得た備後将棋は連打の歩で飛車先を止めて▲3六飛だが、これはどうだったか。▲6七銀とか▲6五銀とか、7六の歩を取り払う感じでいったん受けに回ったほうがよかったのではないだろうか。2六の銀は遊び銀だし、△2六桂には▲3四歩があるからこの銀は取らせても構わない。駒得を重視するコンピュータ将棋の弱点が出た局面だと思う。
 今度は永世名人が攻める番。手に乗って△3七角成とし、▲4七金打に△同馬。ここが問題だった。
 一目△7七銀だろう。▲同桂△同歩成▲同角△7四飛。次は飛車を切っても△6六銀でも△5八銀でも寄りそうだ。
 だが、永世名人は△3三銀
 固い一手だと思うが、今回は踏み込みが足りなかった。▲6一角から飛車を追いまわされて、▲9一馬となったところでは駒不足がはっきりした。千日手がらみに△5八銀から攻めたものの、▲4七金が好手で攻めは途切れた。最後は入玉含みに指して備後将棋快勝。初の決勝戦1勝である。

 プログラム名 1234567
2東大将棋(IS将棋) 先8○7○先6○先4○5○3○先1  600
5AI将棋(YSS) 1○3○先4○先7○先2●8○6  510
1激指 先5●6○先7○8△先3●4○2  321
3銀星将棋(KCC将棋) 先7○先5●8△6△1○先2●4  222
4KFEnd 先6○先8●5●2●7○先1●先3  240
8ハイパー将棋9 2●4○先3△先1△6●先5●先7  132
6永世名人 4●先1●2●先3△先8○7●先5  141
7備後将棋 3●先2●1●5●先4●先6○8  150

 6回戦を終わったところでの星はこういう状況。
 最終戦を前に、東大将棋の優勝が決まってしまった。
 仮に最終戦を東大将棋が負けたとしても、ソルコフ勝負。この場合、東大将棋が激指分のソルコフ分を得ることができず、AI将棋は東大将棋のソルコフ分を得ることができない。とすると、東大将棋の方が勝ち星が多いために「取れないソルコフ分」はAI将棋の方が多い。よって、東大将棋が仮に負けたとしても、ソルコフ勝負で優勝なのである。

 一方、激しいのがシード権争い。
 銀星将棋と激指が、星1つの差で争っている。
 こちらは場合分けは単純で、銀星将棋は勝つのが必須。また、勝った上でなおかつ激指が負ける必要がある。激指が引き分けの場合は(両者3-2-2で)ソルコフ勝負になるが、その場合、激指のソルコフは9.5(+1)、銀星将棋のソルコフは7(+1)で激指の勝ち。
 数字の上では激指が有利だが、激指の最終戦は優勝ソフトの東大将棋。勝つのは簡単なことではない。一方の銀星将棋の相手はKFEnd。こちらの実力はほぼ互角と見ていいだろう。
 シード権はどちらが取るのか。興味深い対局が残ったため、最終戦も楽しみが増えた。

  



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