コンピュータ将棋レビュー

第13回世界コンピュータ将棋選手権 
決勝


●5回戦

●激指 vs ○銀星将棋
  http://www.hakusa.net/shogi/kifuup/kifu/217.html

 銀星将棋の四間飛車に、激指は2二玉型左美濃。激指定跡、とでもいうところか。
 一本△6四歩としておけば手堅かったと思うのだが、銀星将棋は4四銀型を作るべく△4五歩。その瞬間▲6六歩と突かれ、当初の目的は達成したものの、激指にも▲6六銀▲5八飛と十分に形に組まれてしまう。こういう局面になると、美濃囲いの急所は6筋なんだなぁということが改めて判る。
 銀星将棋は△2二飛と回って手薄な2筋を狙ったが、▲5五歩と先に仕掛けられてしまった。王手飛車を怖がらない手順がポイントで、逆に▲7七角と打ち返しては先手が有利だと思う。△2二飛が完全にマイナスになっている。
 ▲1一飛に対して△5八銀もどうだったか? ここは△4九角と打ってみたい。▲5八歩なら△同角成▲同金△同飛成▲2二角成△6九銀▲7九銀△3三桂で次の△5六歩を見ればいいし、▲6八銀と埋める手は△2九飛成が△6七角成と△8四桂を見た味のいい一手となる。
 ところが銀星将棋の読みはこれを超えていた。
 べたっと打った△6九金が妙手。
 ▲7九銀では△5六歩くらいで勝てないと見たか、激指は▲7七馬と引いて徹底防戦の構えだが、△7九角から端攻めに出たのがまたうまい。△9六香に▲8八銀と受けるくらいしかないが、△8五桂で王手馬取りがかかった。△7七桂成で激指陣崩壊。銀星将棋優勢である。
 激指にとって不運だったのは、▲1二飛成に△7八金と引いた手が詰めろになっていたこと。
 この局面になればコンピュータは読み切れるだろうが、端攻めの時や△6九金の時に読んでいるとは思えない。読みの手数とすれば、△6九金の時に端攻めがあるので有利と読み、端攻めの時に桂が入るので△8五桂があって有利と読み、△8五桂の時くらいにやっと△7八金が詰めろであることが見えるくらいだと思う(これでも甘く考えているくらいだ)。つまり銀星将棋は△7八金まで勝ち、と読んでいたわけではなく、有利の線を追っていったら綺麗な詰みを見つけた、という感じだと思うのだ。これは激指にとって不運、銀星将棋にとっては幸運と言うよりない。
 もちろん、だからといって銀星将棋が弱いというわけでは決してない。△6九金を見つけた実力は本物である。そこからの一直線の攻めも凄いと思う。
 銀星将棋、大金星。

●AI将棋 vs ○東大将棋
  http://www.hakusa.net/shogi/kifuup/kifu/218.html

 今大会最重要の一局は、相矢倉となった。
 がっちり組み合うかと思われたが、AI将棋はいきなり▲3五歩と突き捨てる奇策に出た。▲3五歩△同歩に▲同角なら普通なのだが、どういうわけか▲6六歩。
 AI将棋の狙いは、▲3七銀▲2六銀と出て、戦いの場を3筋に限定することにあったようだ。しかし、▲5七金に△6五歩が機敏な一手で、▲6七金と戻るようでは先手失敗である。△7五銀と捨てて△9九角成と馬を作る展開になり、東大将棋がリードした。

 しかし、これくらいでは参らないのがコンピュータ将棋。▲7三銀から▲8八金と粘り、なかなか東大将棋に決め手を与えない。△7七金あたりでは決まったか? と思ったが、▲6八歩、▲8八銀と頑強に受ける。上部の2枚の銀がうまく利いていて、上に駒が打てないために単純に攻められないということなのだろう。
 それでも、△7七飛から清算して△8七成桂となったところでは先手玉はほぼ裸。次に△4八金としばれば必死で、東大将棋の勝ちは目前かと思われた。
 しかしまだまだAI将棋は粘る。
 ▲8一飛と打って合駒を使わせて▲3四桂。そして△7八銀に▲5八玉とかわしてみると、意外なほど玉が寄らない。△7九銀不成▲6六香という展開では、ひょっとすると逆転まである。こうなってみると、東大将棋の△7七同桂成では△7七同馬として、▲6九玉△8七馬▲5八玉(▲7八香は△3八飛くらいで後手勝ちだと思う)△7六馬……といった展開の方がよかったのかもしれない。仕方なく△3三馬と引いたものの、▲8二銀成と飛車を殺した局面ではかなりもつれている。
 △7七成桂に▲5七銀としたのもしっかりした手で、自陣を引き締めてから▲4五桂と待望の反撃。東大将棋は清算してから△7七銀と追ったが、▲5八玉で寄らない。△3四馬に▲3三歩として、今度は東大将棋の玉が危なくなってきた。

 ここで東大将棋は△4五馬。△3三同桂▲同桂成の時に取る駒がないと見て根っこの桂馬を取ったのだが、この瞬間、実はAI将棋に勝ちがあったらしい。
 ▲3二歩成△同玉に▲3三歩と叩くのがそれで、△同玉は▲3一飛△3二合▲2五桂△4四玉▲3二飛成(詰めろ)で一手一手、△同桂は▲4一銀と捨てるのが好手で、△同金は▲2二金以下詰み、△同玉は▲2二金で寄りである。
 ところが、AI将棋は▲3二歩成△同玉に▲3三歩ではなく▲8四飛成。
 ここでAI将棋の勝機は去った。
 △5六馬と取られ、これが△4六桂以下の詰めろ。▲2二金から馬を外して粘るが、△3三銀が冷静で、手数はかかるもののこのレベルでは勝ちは揺るがない。
 東大将棋が直接対決を制し、優勝へ一歩近づいた。

●備後将棋 vs ○KFEnd
  http://www.hakusa.net/shogi/kifuup/kifu/219.html

 振り飛車模様から、KFEndが無理やり矢倉に狙みにかかる。▲6八玉では▲7九角とすれば飛車先交換はできるのだが、備後将棋の穏やかに進め、美濃vs矢倉という形になった。佐藤康光プロ後手番で美濃に組むことはあるが、なかなか珍しい形だと思う。B急戦法ではあったような気がする。
 先手玉は美濃城に入っているが、後手玉は居玉のまま、それに目をつけてか、▲5五歩で開戦。そのまま▲5七銀▲5六銀▲6八金寄▲5八飛とでもなれば面白いなぁと思っていたのだが(笑)、備後将棋は▲7七銀から矢倉に組み替えた。同形のような感じにはなるが、とりあえず歩交換できたからよしというところなのだろう。
 備後将棋は3筋の歩も交換し、棒銀に組み上げて前局のAI将棋戦のような形に。こうなると注目はKFEndの指し方だが、AI将棋のように理想形を目指すのではなく、いきなり△6五歩と突っかけていった。
 そのまま大決戦になるかと思われたが、一転して△7四歩△6二飛と傷を消すKFEnd。これに騙されたか、備後将棋は▲7二角と打ってしまう。
 代償なくこれが打てれば確かに大優勢なのだが、居飛車戦では飛車を成られるのは致命傷になることが多い。本譜も結局▲6六銀と△3九角の筋を受けることになったが、△6五歩でやぶへびとなってしまった。
 最後は突撃をかけたが、連続王手の反則となりKFEndの勝ち。

○永世名人 vs ●ハイパー将棋9
  http://www.hakusa.net/shogi/kifuup/kifu/220.html

 ハイパー将棋の四間飛車を決め打って、永世名人は3手目▲4八銀から一目散に右四間飛車へ。三浦本のような飛車先不突き居飛車穴熊である。
 ところが、ハイパー将棋は何を思ったか△8二銀△7二金。四間飛車だよねぇ……? 結局、ハイパー将棋は6二玉型プラス壁銀という超がつくほどの悪形。玉の固さだけは大差がついてしまった。
 しかしこれに油断したか(そんな筈はないんだけど(笑))、永世名人は△6五銀に▲4五歩と指してしまう。これはいくら穴熊でも無謀で、人間同士であれば、4五の歩をどんどん伸ばして潰しにくるだろう。人間であれば。
 ハイパー将棋はそう指さず、△3九角から馬を作って満足。しかし、これでは穴熊の攻めが炸裂してしまう。▲7七角から▲1七桂がうまい手作りで、▲2五桂と捨てて▲1一角成と捌けては先手有利だろう。
 ハイパー将棋も粘ったが、なにしろ玉が6二である。せめて美濃囲いであったら展開も変わったのだろうが、玉形の弱さがそのまま形勢に出てしまった。

 プログラム名 1234567
2東大将棋(IS将棋) 先8○7○先6○先4○5○3先1  500
5AI将棋(YSS) 1○3○先4○先7○先2●86  410
3銀星将棋(KCC将棋) 先7○先5●8△6△1○先24  212
1激指 先5●6○先7○8△先3●42  221
4KFEnd 先6○先8●5●2●7○先1先3  230
8ハイパー将棋9 2●4○先3△先1△6●先5先7  122
6永世名人 4●先1●2●先3△先8○7先5  131
7備後将棋 3●先2●1●5●先4●先68  050

 5回戦を終わったところでの星はこういう状況。
 全勝対決を東大が制し、ほぼ優勝を手にしたといっても過言ではないだろう。もっとも、最終戦に激指に負けるとソルコフ勝負となり微妙になってくるが、それでも、他に取りこぼしのないAIのソルコフ加算がある分、東大将棋に有利だろう。

 問題はシード権争いだ。銀星将棋の一発が入って、俄然判らなくなってきた。
 KFEndは激指、銀星将棋との直接対局が残っているので、2つ勝てば文句なくシード権獲得。星が偏っているので、初勝利を上げた永世名人まで一応のチャンスがある、と、思う(銀星2連敗で2-2-3、激指がKFEndに勝って3-1-3、KFEndが銀星に勝って3-4、永世名人2連勝で3-1-3でソルコフ勝負。さすがにソルコフを計算する気力はない(爆))。
 備後将棋はどうも結果が出ない。いい将棋が多いので、最後まで頑張って欲しい。

  



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