コンピュータ将棋レビュー

第13回世界コンピュータ将棋選手権 
決勝


●4回戦

△ハイパー将棋9 vs △激指
  http://www.hakusa.net/shogi/kifuup/kifu/213.html

 ハイパー将棋の四間飛車に、激指は2二玉型左美濃。どうもコンピュータ将棋は2三玉型が少ないような気がするのだが、藤井システムを避けているのだろうか? それとも、2二玉型が多いというのが気のせいなのだろうか?
 早い▲5六銀を見て、激指は△7二飛から動く。対してハイパー将棋は▲6七金とじっくり構え、△2四角に▲4八飛と振り戻して応戦。そこから▲4五歩と仕掛け、一応、全ての手をうまくまとめた。欲を言えば▲3七桂を入れておきたいところなのだが、△6四歩とされる手も気になるし、△1二玉とされてもチャンスを逸するので仕掛けたのだろう。
 途中の▲4六飛は個人的にはどうかと思うのだが(△3六歩▲同飛△3四歩と控えて受けられるのが少し気になる。そこから▲4六飛と振り戻しても、結局3六の地点が傷になる)、▲4五歩から華麗に捌き、▲3五角成となったところでは桂損ながら先手が面白いと思う。後手は飛車が働いていないし、玉も薄い。
 ところが、▲4四歩△4二歩を利かせてからの▲8三金が方向を誤った。
 桂損を取り返せるし飛車当たりにもなるし、それはそれで有効な手なのだが、その後、▲6二金△8一飛▲7二金△5一飛を繰り返して千日手となってしまった。
 ▲6二金では、▲6四歩と突くのがおしゃれな手だったと思う。△同歩▲6三歩に△7一飛は▲4三歩成(飛車取り)がある。また、▲8三金のところでもやはり▲6四歩と突いてみたい。△同歩▲6三歩が次の▲6二歩成△同飛▲4三歩成の先手になる。
 ここで勝っていたら大金星だったのだが、ハイパー将棋残念。

○東大将棋 vs ●KFEnd
  http://www.hakusa.net/shogi/kifuup/kifu/214.html

 相矢倉。
 一目散に矢倉を組み上げるKFEndに、東大将棋が▲2五桂を利かせ、双方牽制しつつの駒組みとなった。
 細かい応酬の後、KFEndが△7五歩と仕掛け。▲同歩△同銀▲7六歩△6四銀となったのだが、▲8五桂はなかったか。▲8六銀▲7六銀でも銀交換にはなりそうだ。先手は4七銀型なのでどちらかというと受けに勝った形だし、桂馬の質駒もあるので行けたかもしれない。
 もっとも、こういう「なんとかなりそう」という読みをコンピュータに求めるのは無理と言うもので(笑)、KFEndとしては歩交換のポイントをあげたのだから満足という考えなのだろう。
 このあと、飛角を動かしたりせっかく交換した歩を打ったりともちゃもちゃした動きが続く。これもコンピュータ独特の動きで、目に判るマイナスは今までのプラスを放棄しても避けるということなのだと思う。人間だったら、「そういう展開にはしたくないから」別の手を考える、という思考をしそうなところだが、これもまた組み込むのは難しそうだし、そういう思考をコンピュータ将棋に組み込んで果たして強くなるのかという問題もある。
 △7三角を隙ありと見て、東大将棋は▲7五歩から動いた。KFEndも待望の△5五形を実現して、局面は叩き合いに。しかし、歩のないKFEndは細かい攻めができず、東大将棋の▲8九桂というしっかりした受けもあって、少し切れ模様になってきた。こうなってみると、△6四銀では△2五銀▲同歩△6六銀▲同銀△5五桂とか、「駒損はするが大駒の利きを生かす攻め」を真剣に考えるべきだったかもしれない。△2七金というコンピュータ特有の疑問手も出て、局面は東大将棋に傾いた。
 ここからは東大将棋の独壇場。細かく歩を使って守りの金をはがすと、KFEndに手がないと見るや一転して▲8四成銀。△4七香以下駒を重くさせておいてからバラバラにして▲8五成銀と桂を取り切り、これで玉が全く寄らなくなった。
 東大将棋、快勝。

△永世名人 vs △銀星将棋
  http://www.hakusa.net/shogi/kifuup/kifu/215.html

 銀星将棋の三間飛車。序盤早々△3六歩とつっかけて一瞬緊張が走ったが、結局固め合いの相穴熊に落ち着いた。△3六歩自体は部分的にはそんな手なのだが、銀を1枚僻地に持ってった(普通は▲5七銀とかなるところだ)と考えればそんなに悪い手ではないのかもしれない。
 永世名人の▲3六歩がどうだったか。ここに歩を打ってしまうのはあまりにも率が悪すぎる。ここは悪くても▲3六銀か、ここに歩を打ってしまうのであれば▲4六銀▲5七銀としないとウソだ。本譜の▲3五歩▲3六銀はあまりにも無策で、銀星将棋に△5二飛とかわされてしまった。これでは位は何の役にも立たない。
 ところが、ここから事件は起きる。
 5筋の歩を交換し、端の位も取った銀星将棋は、自分から動くのは損と見てか△7三金△7二金の上下運動。永世名人側も不利を自覚しているので▲3九飛▲3八飛と自分からは動かない。そしてそのまま、千日手が成立してしまった。
 どうやら、銀星将棋は千日手の規定を勘違いしていたらしいのだ。最終手△4二角にもそれは現れている。これは銀星将棋の棋譜を起こしたものだが、永世名人側の棋譜は▲3八飛で止まっているのである。
 これくらいの有利が勝利に直結するほどコンピュータはまだ強くないが、惜しかったと思う。

○AI将棋 vs ●備後将棋
  http://www.hakusa.net/shogi/kifuup/kifu/216.html

 がっぷり四つに組んだ相矢倉。序盤はお互いに動けず、細かい動きを繰り返した。
 それでも、2六角・3六銀・3七桂と教科書に載っているような理想形に組んだAI将棋と、棒銀が8四に取り残されたままの備後将棋。駒組み合戦で差がつき、「駒がぶつかった時には既に不利」という矢倉特有の展開になってしまった。
 これはもう手を読んでどうこうというレベルではなく、「形」の問題なので、落とし穴方式の利点がそのまま出た格好になった。▲4五歩△6五歩で開戦だが、同じ歩突きでも後ろに控える陣形が違う。AI将棋の▲6六銀▲5五銀という力強い指し手もあり、備後将棋の矢倉城はあっという間に崩壊してしまった。
 最後はいったん▲4七銀と締める渋い手も披露し、位を逆襲する▲1六歩▲1五歩が間に合ってAI将棋が勝ち切った。
 少し惜しいなと思ったのは、備後将棋の△7七歩。よくある利かしなのだが、この歩がなければ、▲6一飛の局面で持ち歩が1歩あることになる。それだと、△7四歩の楽しみを残して△5八角では△3一銀打と受けたかもしれないのだ。局面が違うのでAI将棋が同じように攻めるという保証はないが、今まで棋譜を見てきた感じだと、もし同じように進んで▲6一飛と打たれたら、備後将棋はきっと△3一銀打と打つと思う(受けに強い棋風だと思うので)。
 それでどうなるわけでもないが、△5八角と打って△4五金▲同銀△2五角成とか、まだまだ一山も二山もあったと思う。力を出し切れずに負けた感じがする。残念。

 プログラム名 1234567
5AI将棋(YSS) 1○3○先4○先7○先286  400
2東大将棋(IS将棋) 先8○7○先6○先4○53先1  400
1激指 先5●6○先7○8△先342  211
8ハイパー将棋9 2●4○先3△先1△6先5先7  112
3銀星将棋(KCC将棋) 先7○先5●8△6△1先24  112
4KFEnd 先6○先8●5●2●7先1先3  130
6永世名人 4●先1●2●先3△先87先5  031
7備後将棋 3●先2●1●5●先4先68  040

 4回戦を終わったところでの星はこういう状況。そろそろソルコフ計算がめんどくさくなってきた(笑)。

 東大将棋とAI将棋が4連勝。次はついに激突である。激指が引き分けを取って半歩後退したので、ここで勝った方がほぼ優勝とみて間違いないだろう。上位では引き分けは負けと同じだ。
 逆に下位集団では引き分けは勝ちにも等しい。上位陣の激指、当面の敵銀星将棋と引き分けたハイパー将棋は、これでまた一歩リードしたと言えるだろう。
 永世名人と備後将棋はいまだ0勝。そろそろ頼むよ(笑)。

  



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