コンピュータ将棋レビュー

第13回世界コンピュータ将棋選手権 
決勝


●1回戦

●激指 vs ○AI将棋
  http://www.hakusa.net/shogi/kifuup/kifu/201.html

 相矢倉の序盤にAI将棋がすかさず△6四歩の変化球を見せる。
 しかし、そのまま右四間の戦いに突入するかと思いきや、AI将棋は不可解な銀の上下を繰り返す。対うさぴょん戦でも露見した落とし穴方式の問題点か? 40手付近では、早くも駒組み合戦を激指が制した。
 とはいっても、これくらいで勝負がつかないのが現在のコンピュータ将棋。激指の▲3七角に乗じ(人間の感覚では、この手は疑問だと思う)、形にとらわれず△3五歩△3四金△2四歩となんと玉頭から動いて出た。そのまま敵飛車めがけて金銀が盛り上がっていき、とうとう敵陣を突破してしまった。
 その後は少しもたついたものの、逆転することなくAI将棋が寄せ切った。
 1手の緩手(▲3七角)で勝負がついてしまった感じで、現在のコンピュータ将棋の実力の高さを感じた。うさぴょん、よく勝てたなぁ……(笑)。

○東大将棋 vs ●ハイパー将棋9
  http://www.hakusa.net/shogi/kifuup/kifu/202.html

 東大将棋が相振りを避けた形で、ハイパー将棋の四間飛車対東大将棋の居飛車穴熊に進む。
 ハイパー将棋のゆったりした動きにつられたか、東大将棋は一昔前のような悠長な組み方。それを見てとってか、ハイパー将棋は機敏に仕掛けた。銀を犠牲に△2七歩成まで、見事な仕掛けだと思う。
 ところが。
 △2八との後、黙って△3八とと寄っておけばハイパー将棋がよかったと思う。
 しかし、飛車筋が通る味に惚れたか、△5八金の飛車銀両取りに評価関数が高得点をつけたか、その辺のところは判らないが、ハイパー将棋は△7九角成〜△5八金と指してしまう。これでは駒が重過ぎて完全に逆転である。
 △3八とはコンピュータ的にも決して難しい手ではない(駒得になる手なので)ので、何かあったとしか思えない。

 ここから先は東大将棋が攻めまくる。
 最後は危なそうだが、東大将棋は読み切っていたらしい。一番危なそうなのは▲6二金の瞬間に△8九銀成▲同玉△5八銀成▲7九銀打△同桂成▲同銀△6二香(単に△6二香は▲7八金で先手勝ち)で、ペーパー5段の白砂には明快な勝ち筋は判らなかったが、何か寄せがあるのだろう。

 ハイパー将棋、惜敗。

○銀星将棋 vs ●備後将棋
  http://www.hakusa.net/shogi/kifuup/kifu/203.html

 銀星将棋の四間飛車に備後将棋の鷺宮定跡。
 △7五歩▲同歩△同飛の軽い仕掛けから数手を経て、△6五歩は機敏だったと思う。ただ、銀星将棋の▲5六金も力強い受けだ。△6五歩に▲7五金もうまい手で、金銀交換ながらうまく飛角を捌いた。
 ▲7五飛の局面でじっと△7三歩と打てれば備後将棋がよかったと思う。先手陣には△6八金から△6七歩成という判りやすい攻めがある。▲6五飛もあるので簡単ではないが、これなら備後将棋も指せていた。

 本譜は最悪の形で飛車交換。あっさり決まるかと思ったが、備後将棋は強かった。△6七歩成から微妙なバランスで受けに回り、なかなか決め手を与えない。その後も△8三香、△7二銀など脅威の粘り。それに惑わされたか、銀星将棋は△4四歩に▲7五香。素直に▲同歩でいいんでないかい?
 とはいえ▲7五香も悪手ではない。▲4六馬や▲6四歩などの堅実な手を交え、粘る備後将棋を振り切った。
 局地戦のねじりあいになれば、コンピュータはかなり強いと言う証明だろう。なかなかの名局だったと思う。

○KFEnd vs ●永世名人
  http://www.hakusa.net/shogi/kifuup/kifu/204.html

 相矢倉。永世名人が△5二金右からすかさず早囲いに。こういう手に対してコンピュータはまだ対処できないので、強引な指し方もいい判断なのだろう。さっさと矢倉囲いを完成させ、今度は△7二銀から原始棒銀風。なんか田中寅彦あたりが指していたような気もするなぁ……。
 KFEndは無策のまま4六銀戦法の陣形へ。永世名人は角銀総交換して飛車先も切れ、これは満足の形だろう。▲7七金寄に△9三桂から△8五桂としたのも機敏で、しっかり相手の手を咎めている。
 更に、△6九角▲5八銀△2七銀と畳み掛け、▲4八飛に△7八角成から△3八金と飛車を捕獲。返す刀で△5九飛と打ち込み、ここまでタコ殴り状態である。
 とはいえ、さしたる駒損もないし、そんなに形勢を損ねたというわけでもない。コンピュータ将棋ではこれくらいの形勢の揺れは「誤差」である。がっちり▲6九金と受けてから反撃を開始し、矢倉特有の全面戦争に突入した。
 こういう将棋の場合、特に上が開いているために攻める方が厳しい。実際、後手の永世名人の攻めが少しずつ空を切る感じになってきた。これは▲5一角から馬を作って攻め駒を責めながら受ける展開にしたKFEndを誉めるべきだろう。
 最後、一息ついた時の▲5五歩もうまい。ゆっくりしているようだが確実な手である。速度計算がちゃんとできている証拠だと思う。級位者では、こういう一見のんびりした手は指せない。
 KFEndの快勝譜だと思う。

 プログラム名 1234567
2東大将棋(IS将棋) 先8○7先6先453先1  100
3銀星将棋(KCC将棋) 先7○先5861先24  100
4KFEnd 先6○先8527先1先3  100
5AI将棋(YSS) 1○3先4先7先286  100
1激指 先5●6先78先342  010
6永世名人 4●先12先3先87先5  010
7備後将棋 3●先215先4先68  010
8ハイパー将棋9 2●4先3先16先5先7  010

 1回戦を終わったところでの星はこういう状況。
 上位順に表を並べ替えている。この方が、星状況がよく判ると思うので。

 結果から言うと順当な星だと思う。激指vsAIが1回戦の一つのヤマで、ここを通過したAI将棋は東大将棋を倒せば優勝へ大きく前進する。逆に、激指は東大を喰って巴の状態にし、ソルコフ等で上回るしか優勝の目はないだろう。序盤から厳しいスタートとなった。
 とはいえ、1回戦の棋譜を見た限りではどのソフトもかなり強い。備後将棋の粘り、KFEndの受けは評価に値する。永世名人のクセのある序盤も、場合によったら上位陣に一発入れる可能性がある。

  



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